月別アーカイブ: 2019年3月

第56回秋田県脊椎脊髄病研究会 (阿部和伸)

ひと雨ごとに寒さもゆるみ、春を待ちわびる3月9日、「第56回秋田県脊椎脊髄病研究会」がにぎわい交流館AUで開催されました。

初めにAO Spine fellowship in 2018で留学された2名の先生方の帰朝報告が行われ、小林孝先生が韓国、工藤大輔先生がイギリスでの様々なご経験をご報告されました。

セッションⅠでは研修医・若手整形外科医のための脊椎外科基礎講座と題して、頸椎脱臼骨折の分類、初期対応、手術について鈴木真純先生、石川慶紀先生、鈴木哲哉先生にそれぞれご講演いただきました。頸椎脱臼骨折というテーマは、あらかじめ若手を対象に行ったアンケートで最も要望が多かったことから決まりました。整形外科のみならず救急を担当しているものならば誰しも対応しなければならない可能性があり、そのような場合に適切に対応できるよう、たっぷりと勉強しました。

セッションⅡではミニレクチャーとして、本研究会の当番幹事である木下隼人先生に「腰椎椎体骨折に対する経皮的椎体形成術」という題でご講演いただきました。Balloon kyphoplasty(BKP)の特徴や適応、実際の手順について、写真を多数交えてわかりやすく教えていただきました。

セッションⅢは一般演題で、珍しい症例や教育的な症例の報告、整形入院患者の筋量変化に着目した臨床研究、手術時の放射線被ばく低減を目指した研究の発表があり、どの発表についても活発な議論がなされました。

セッションⅣは特別講演でした。
特別講演1には金沢大学整形外科講師の出村諭先生をお招きし、「脊柱変形、脊椎腫瘍に関する基礎的知識と当科での治療の変遷について」という題でご講演いただきました。小児脊柱変形の特徴や自然経過といった基本的な内容から治療の歴史、治療戦略まで幅広い内容と、脊椎腫瘍に対するTotal en bloc spondylectomy(TES)の戦略について実践的な内容をお話しいただきました。また、金沢大学とはバスケットボールでライバル関係であり、ご講演の途中でバスケットの動画(なぜか秋田大学の好プレー集)が放映され、大いに盛り上がりました。
特別講演2にはJA広島総合病院整形外科主任部長の田中信弘先生をお招きし、「頸部神経根症に対する後方手術—マイクロサージャリーと疼痛治療—」という題でご講演いただきました。豊富な経験から微細解剖や手術手技、長期成績について、画像、動画をふんだんに用いてわかりやすく、最後はリスクマネージメントについてもお話しいただき、大変勉強になりました。

セッションⅤとして市内の焼き肉店で肉を食べながら情報交換を行い、特別講演でお招きした先生方に日ごろ疑問に思っていることなどを質問させていただきました。今後も秋田県脊椎脊髄外科の進歩と、若手の育成のため、本研究会を盛り上げていきたいと思います。

(文責:阿部和伸)

CSRS-AP 2019(木村竜太)

H31年3月14-16日、CSRS-AP (Cervical Spine Research Society-Asian Pacific Section) 2019が横浜で開催されました。

CSRSは米国Ver.、ES(European Section)の欧州Ver.、そして本会のAPがあり、今回日本での開催(President: 清水敬親先生、榛名荘群馬脊椎脊髄病センター)ということで、秋田厚生医療センターから小林孝先生と木村が参加してきました。

4年前にESに参加したときは、なにもわからず、すごいなーという感想だけで終わりましたが、今回はOral Presentationの機会をいただいたので、全力で

参加してきました。

現在頚椎に対する手術は、後方法が圧倒的になっていますが、前方法による直接除圧ならびにアライメント矯正について、多くのセッションで発表がありました。リスクがあるから前方を避けるのではなく、リスクを考慮した上で患者さんに最適な治療を提供するべきだと考えさせられました。

海外からは、頚椎前方固定を局所麻酔で行う!?報告や、骨切りした椎体をスライディングさせるアイデアなど、日本の中では見ることのできないプレゼンがたくさんあり、とても刺激的でした。

私の発表は、緊張しすぎてあっという間に終わりましたが、同行の小林先生も一緒に緊張しすぎて発表時の写真を撮ってもらえませんでした。まだ英語でディスカッションができないことが本当に悔しく、海外で堂々と発表できることを決意するきっかけをいただきました。

 

Welcome Receptionは脊椎外科医のバンドの演奏の中、とても盛り上がり、多くの著名な先生方と交流の機会を持つことができました。盛り上がりすぎて会場のお酒がなくなり追加になっていました。小林先生が先日Travelling fellowでお世話になったJong-Beom Park先生ともお話させていただくことができ、このような交流を秋田に根付かせたいです。

第6回しらかみ疼痛セミナー(阿部和伸)

冬の厳しい寒さが続いてはいるものの、ひだまりの温かさには春の気配を感じ始めた2019年2月22日、「第6回しらかみ疼痛セミナー」がアトリオンで行われました。整形外科診療と疼痛には深いつながりがあり、疼痛とその治療に関する知識は私たち整形外科医にとって必須のものといえます。今回は北海道と鹿児島から2名の先生に秋田へと足を運んでいただき、脊髄損傷の医療とそれに関連する痛み、肩腱板断裂の痛みと手術についてそれぞれご講演いただきました。

特別講演1には独立行政法人労働者健康安全機構北海道せき損センター副院長の須田浩太先生をお招きし、「北海道における脊損医療の現状と課題~痛みも含めて」という題でご講演いただきました。
北海道せき損センターは、脊髄損傷の急性期から慢性期に至るまで、すなわち救急、手術、リハビリテーション、社会復帰まで包括的な医療を行っている大規模専門せき損センターです。このような施設は日本で北海道と九州に2施設しかありません。須田先生は北海道における脊髄損傷の疫学、治療、リハビリテーションの現状、呼吸器感染や血栓といった合併症対策などについて、実際の豊富な症例を交えてお話しいただきました。また、須田先生の秋田通ぶりもご紹介いただき、秋田と所縁のある祖先の話題であるとか、秋田の食などもスライドに登場し、大変楽しいご講演でした。

特別講演2には鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻運動機能修復学講座整形外科学教授の谷口昇先生をお招きし、「腱板断裂に対する腱板修復術と人工関節の適応」という題でご講演いただきました。
谷口先生はアメリカのスクリプス研究所へ留学して10年近く研究をされてきた先生で、研究者から臨床の現場に戻る決意をされ、帰国して北海道で肩の修行をしたのちに宮崎を経て故郷である鹿児島に戻ったという経歴があります。最初にこれまでをドラマティックに振り返り、研究所での出来事やターニングポイントとなった出来事などをお話しいただきました。肩の痛みを訴えられる患者さんは非常に多いです。今回は特に腱板断裂の痛みやこれに対する手術治療について、すなわち腱板縫合から反転型人工肩関節まで最前線の治療をご紹介いただき、大変勉強になりました。

今後も疼痛を訴える患者さんに真摯に向き合い、痛みの改善やQOLの向上を目指して最適な治療を提供できるよう研鑽を重ねていきたいと思います。