この度, 9軸慣性センサを用いた変形性膝関節症の歩行解析に関する論文がSensors (IF 3.847)に掲載されました.
Tsukamoto, H.; Saito, K.; Saito, H.; Kijima, H.; Akagawa, M.; Komatsu, A.; Iwami, T.; Miyakoshi, N. A Novel Classification of Coronal Plane Knee Joint Instability Using Nine-Axis Inertial Measurement Units in Patients with Medial Knee Osteoarthritis. Sens
ご指導いただきました宮腰尚久教授, 齊藤英知先生をはじめ, 臨床研究グループのメンバーにこの場を借りて深謝申し上げます.
変形性膝関節症は日本国内に約2530万人いると推計されており、痛みや可動域制限などのため日常生活に支障をきたし, 要介護の原因となりうる疾患です. 進行するとラテラルスラストと呼ばれる歩行時の膝の外側への横ぶれ現象を認め, ラテラルスラストは痛みや病期の進行度との関連が深い異常運動として整形外科医の間で一般的に知られています. 我々の先行研究にて, 9軸慣性センサと呼ばれるウェアラブルデバイスを下肢に装着して歩いてもらうだけで, ラテラルスラストを簡易的に定量評価する手法を開発しました(Hiroaki Tsukamoto, Kimio Saito, Toshiki Matsunaga, Takehiro Iwami, Hidetomo Saito, Hiroaki Kijima, Manabu Akagawa, Akira Komatsu, Naohisa Miyakoshi, Yoichi Shimada, Diagnostic Accuracy of the Mobile Assessment of Varus Thrust Using Nine-axis Inertial Meas). その研究の中で, 人間の目では捉えられないほど小さなラテラルスラスト(潜在的スラスト) が生じていることがわかりました.
そこで今回の研究では, 9軸慣性センサから得られる加速度データを用いて歩行時に膝に加わる慣性力の方向によって4つの歩行パターンに分類し, ラテラルスラストを歩行パターン間で比較検討しました. 結果は立脚初期に大腿および下腿に反対方向(内/外側)の加速度が生じている歩行パターンでは潜在的スラストが生じていることがわかりました. さらに, この異常な歩行パターンは従来のレントゲンでは異常を認めない早期変形性膝関節症患者に多く認められるという結果でした.
ウェアラブルデバイスはスポーツ現場から我々の日常生活まで広く浸透してきており, 整形外科分野においても臨床応用が期待されています. 将来的には, デバイスをつけて歩くだけで変形性膝関節症の重症度や予後判定ができるようなデバイスやアプリの開発につながることを期待して, 臨床と研究をバランスよく実践していきたいと思います。