木島泰明先生留学便り5

「自由」の国、フランスの手術2と題して今回は、ここフランスのHôpital Henri Mondorにおける人工股関節置換術Total Hip Arthroplasty (THA) についてご紹介致します。

人工股関節置換術 Prothese Total de Hanche (PTH)

臨床配属みたいな学生さんは、とても熱心なのか義務なのか、いれば必ず手洗いをして手術に入るが、13時ころからは講義があるらしいので、13時以降の手術や、朝の用事で学生さんがいない時には手洗いして手術に入らせてもらっている。

手洗いは水道水とイソジンスクラブで1回洗った後、不潔の紙タオルで拭いて、アルコールを念入りに刷り込むスタイル。指輪を付けたままの人もいる。次にガウンを羽織り、手袋を1枚付けてからガウンの帯を締める。そしてもう1枚、手袋。

さて、ここでのTHAのアプローチはなんと今はposterolateralでした。パリで1番大きな整形外科施設であるコシャン病院はtrans-trochanteric approachだそうで、そこがライバルなので、前方系やHardinge (ハーディンジュと言っていました)などもやっていたが今はこれだそうです。教育がメインの施設のせいもあるかもしれません。それもあって、皮切長にもこだわっていませんし、教わりながらインターンの先生が執刀していて、手術時間は2時間くらいです。ちなみに僕がこのあと回らせていただくもう2施設は前方系のアプローチのはずですし、プライベートクリニックなので、また全然違ったレポートができると思いますので、そちらも楽しみにしていて下さい。(あとでHernigou教授に、アプローチについてお伺いしたところ、フランスでは7割はposterolateral、2割がanterior、1割がtrans-trochantericとおっしゃっていました。)

体位は側臥位で、いわゆる骨盤支持器は使わず、普通の体側支持器で仙骨と恥骨を挟むようにして固定するのみです。通常は両下肢の間に枕は挟まないので、反対側の下肢も圧布の下に触れるため、両下肢を揃えるようにして両側の膝や踵を触って脚長差を確認しています。やや外転位を保持したいときには滅菌した枕を使っています。実際には滅菌した袋に不潔のタオルを入れているのでやや怪しい感じですが、秋田で使っている大枕をそのまま滅菌できるならそれもありかなと少し思いました。足袋にはストッキネットを使っていますが下腿以遠はそれを二重にしています。ちなみに3時間近いような手術以外はフォーレはいれないようです。

外旋筋群は切離して最後はそれなりに再建(縫合)していますが、術者によっては関節包もなるべく縫合するという先生もいるし、切除している先生もいます。関節包を大事にしている先生はproprioceptorが関節包に存在するから重要視しているのだ、とおっしゃっていました。

機種はTKAと同じCERAVERというフランスメーカーのものを全員が使用。ですが、臼蓋側のリーマーだけはまたもやストライカーを使用していました。これはパワーツールをストライカーで統一しているせいのようですが、つまりはストライカーのツールが使いやすいからのようです。

カップはPoignard教授とヒップ専門で小西先生似のDelambre Jérôme先生はセメント、それ以外はセメントレスがメインだと思われました。セメントレスの時は最終リーミングサイズと本物のカップサイズは同サイズと話していましたが、接触面の構造のためか、楕円カップでなく半球カップにもかかわらず、ほとんどがプレスフィットするためスクリュー固定する例は稀でした。寛骨臼形成不全症例がほとんどないのも一因と思われます(約5%)。

でも、どの先生もリヴィジョンの時はあまり迷わずセメントカップを使っています。臼蓋側セメントのアンカーホールは鋭匙で6-8mmくらいの穴を前方、上方、後方に1か所ずつ、合計3か所だけ穿けると決めているようです。セメントはTKAと同じものでワーキングタイムが長いので、やはりカウントせずにゆっくりカップ設置。体重をかけて圧入するというより、セメントカップでもインパクターをガンガンハンマーで叩きます(ハンマーはフランス語で「まとー」です。マトー・シルヴプレで看護師さんが渡してくれますが、本当は冠詞を付けてル・マトゥだそうです。)臼蓋側の展開には細めのピンレトラクターをたくさん打ち混んでいます(これはフランス語で「ぴんち」のようです。ちなみにガーゼはデ・コンプレイス・シルヴプレで何枚かくれます。”デ”は複数を表わす冠詞だからですね。もう1枚欲しいときは”あんこーふ”-encore-です。そうです、日本語のアンコールはフランス語からきているようです。)

カップの設置位置に関しては横靭帯を重視している先生が多いようで、そこにハサミ(れ・しぞー、あるいは、マイヨ―・ロン「長いメイヨ―」)を入れてぐっと開いて剥離したところにホウマン鈎を入れてからリーミングという先生が多いです。ほとんどがプライマリーOAのような症例ですが、1例だけ寛骨臼形成不全のキアリ骨盤骨切り術後OAという症例だけが僕が経験したdysplasiaのケースでした。この症例には手洗いして入らせていただいた(―手洗いしていいですか―ジュ・プ・スクラビン?で通じました。スクラビングは英語ですが..)のですが、ブロック骨移植にセメントカップ固定していました。(全部で50例近くのTHAを見せてもらいましたが、massiveの骨移植はこの1例のみ、morselizedの骨移植も1例だけ、KTプレートの脇にしているのを見たのみです。) これだけプライマリーOAがあるとやはりそのうちの相当数はいわゆるFAI由来かもと思われる画像所見でした。

ステムは気まぐれに?若いから?1例のみセメントレスを使っているのを目撃しましたが、その1例以外は全員がセメントステムを使用していました。スターターリーマーは使わず、鋭匙で髄腔内の海綿骨を掻き出すようにして髄腔を確認した後は通常通りブローチング。ギチギチに入るまでサイズアップしたらトライアルせずに(トライアルする先生もいます)セメントプラグもブローチを使って押し入れてからセメンティングです。セメントガンは使わず、吸引チュ-ブを髄腔の奥に入れて、50㏄シリンジでセメントを注入。1回だけの注入で足りるようです。

ステムはブローチとほぼ同じ大きさなのですごく薄いセメントマントルです(いわゆるフレンチ・パラドクスっていうやつですよね)。ポリッシュですがカラー付きのステムなので、どこで荷重を受けていると思いますか?でもフランスではずっとこうやってきて、長期の成績も良いとのこと。ちなみにステムもセメントですがガンガン叩きます。そのあとにトライアルをやってネックの長さを決定してヘッドを付けています。このトライアルもしないという先生もいます。トライアルも70度くらい屈曲位で30度くらい内旋しても脱臼しなければまあ大丈夫でしょうという感覚のようです。ちなみにここで使っているCERAVERのセメントカップには内部に可動性のOリングみたいなものがついていてそれも脱臼の抑制に有利みたいな話だったのですが、どういうメカニズムなのかもう一つ理解できずにいます。結構前からのシステムのようです。ちなみに術前プランニング用のCTは撮っていないようですが、カップトライアル設置後など、少しでも不安要素があれば術中写真は結構ためらわずに撮っています。

ということで摺動面はセメント派はCoP、ハイブリッド派はCoCです。ヘッドサイズは基本32mmのようです。フランスといえばdual mobility cupでも有名ですが、ここでは現在は、ほとんど使われていません。ある先生は、dualにしても外れるときは外れるし、誰かのデータでは脱臼率が変わらなかったみたいだよ、こんなトラブルもあるしね(ちょうどdualのアウターカップとインナーカップの間で外れた症例のリヴィジョンの手術の時でした)、だから今、うちでは積極的には使っていない、とのことでした。あとでHernigou教授に個人的に伺ったところでは、高齢者にはとても良いと思う、でも若年者にはちょっとね、ということでした。ちなみにフランスでは高齢者でもひどい骨盤後傾の患者さんは見かけません。脊椎の変形も日本のような全後弯になることはあまりなく、胸椎だけ後弯する円背や、胸椎後弯・腰椎前弯の凹円背がほとんどのためのようです。

誤解を恐れずに言えば、ここの先生たちはあまり脱臼を、もしくはリヴィジョンを我々ほどには“恐れていない”のかもしれません(リヴィジョン-フランス語ではReprise-もしょっちゅうやっているし!?)。もしかしたら、数多くやっている先生あるいは施設は日本でもそうなのかもしれません。ただフランスは結構、患者さんにも受容されやすいのかもしれません。おそらくアメリカのような訴訟社会でもなく、日本ほどにもインフォームド・コンセントも厳しくなく、合併症があってもそういうものかなとみんなが感じちゃう土壌があるのかもしれません。役場の事務手続きが全然進まなかったり、手続きの方法までが担当者によって言うことが全然違ったりするのもフランスなら当然らしく、みんなそれをしょうがないことだと受け入れているらしいのですが、それと関係があるかどうかはもちろん不明ですが。

ちなみにリヴィジョン時の感染の有無の確認は血液検査(主にCRP)とリヴィジョン手術時の関節液などの組織培養くらいのようです。それとリヴィジョンの手術で驚いたのは、前に入っていたセメントやセメントプラグを除去するのに、外傷に使うストライカーの髄内釘用のドリルやガイドワイヤーや髄腔リーマーを使用していることです。ストライカーが許してくれるのであれば使えるかもと思いました。

(追伸:人工骨頭症例は結局1例も見ませんでした。頸部骨折症例には全例THAをやっておりました。寛骨臼骨折も保存治療がメインで1-2年後にOAの診断でTHAという症例が多いようです。)

写真1

 

 

 

 

 

 

(写真1) ↑体重かけたリーミング!

写真2

 

 

 

 

 

 

(写真2)↑ステムも緑でおしゃれ。

写真3

 

 

 

 

 

 

(写真3)↑骨頭は軟骨をボーンソーで除去して移植。   ↑ジェローム小西先生!?

写真4写真6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(写真4)(写真5)(写真6)↑商品化された同種骨

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(写真7)↑KTプレートはこのように把持していました。