投稿者「akita-u-seikei」のアーカイブ

2017 AAOS(American Academy of Orthopaedic Surgeons,アメリカ整形外科学会)のpaper(口演)を経験して,いま思うこと(野坂光司)

2017年3月14日~3月18日,サンディエゴで開催されたAAOSで.口演してまいりました.発表内容は,足関節周辺骨折におけるMATILDA法(Multidirectional Ankle Traction using Ilizarov external fixator with Long rod and Distraction Arthroplasty of Pilon fracture )の有用性についてです.MATILDA法とは,秋田Ilizarov法グループで発案した,高齢者足関節周辺骨折に対して行うIlizarov創外固定の特徴を生かしたLigamentotaxisによる整復, Distraction Arthroplastyを行いつつの早期荷重を可能にするリング設置による治療法です(別冊整形外科66:173-177,2014,整形外科サージカルテクニック 5:56-62, 2015,整形外科手術 名人のknow-how イリザロフ創外固定を用いた難治骨折の治療.整・災外 59:1152-1157,2016).

20年後の関節症性変化が勝負とされるPilon骨折において,わずか1年の臨床成績のこの我々の後ろ向き研究に対し,これまで国内のプレゼンではときに批判も受けてきましたが,今回,難関のAAOSのOralに採択されたことで,さらに,フロアの反応も良好だったことで,我々のしてきたことが世界でも認められたと嬉しく思っております.

県内では,島田教授の応援に加え,山田晋講師が『MATILDAっていいな』と言ってくれたことがとても心強かったです.

また国内でも,私のIlizarovの師匠である大関教授や杉本先生,さらには多くのPilon骨折の達人の方たち,特にJSETS土田芳彦先生の応援は非常に心強く,『MATILDA法は世界に誇るべき優れた方法です』という励ましのメッセージを,AAOS発表前,緊張を和らげるために何度も読み返しました.今回創外固定学会で多くのシンポジウムを下さった白濱正博先生,また衣笠清人先生,野田知之先生,小川健一先生,松村福広先生ら,多くのプレートの達人,髄内釘の最上敦彦先生や,EOTSで認めて下さった黒住健人先生など,IlizarovなしでもPilonをラクラク治せてしまう天才外科医の方々の励まし,Ilizarov界では竹中信之先生の応援など,私が若い頃から本当に憧れ,目標にしてきた多くの偉大な先生方がMATILDA法を認識して下さったことはAIMGにとって本当にありがたいことです.

留学先のBossで,アメリカ足の外科学会の重鎮であるProf. Brodskyの高評価と激励も大変な自信になりました.

これまでIlizarovのプレゼンをするたびに,幾度となく『そんなもの(Ilizarovなんか)いらない』と言われてきました.その通りです.患者さんを,トラブルなく,内固定し,しっかり歩かせられて,早期に社会復帰させることができれば,あんな大きくて不快なIlizarovなどいらないのです.僕はMATILDA法が最強だ,などとは微塵も思っておりません.内固定で上手く,そして早く社会復帰させられたら,それに優るものはないのです.でも残念ながら,世の中は天才外科医だけではありません.私のもとには多くの悲惨な感染例が紹介されてきますし,骨はついたけど尖足で困るといった症例なども後を絶ちません.いい手術だけど2ヵ月ほど『足をつかないで』と言われてリハビリ病院で車イス生活になった人もいます(それはいい手術ではないかも).

いつも思うことは,プレート,髄内釘,Ilizarovは単なる固定材料であり,そこに優劣などつけるべきものではありません.Bone Transport,血管柄付腓骨移植,Masqueletも手術方法であり,それに優劣をつけようとするのも同様の行為と思います.大切なのは,どの治療戦略が,目の前の患者さんを最も上手く早く治すのかという,詳細な術前準備と,患者を最後までしっかり治そうとする強い意志(自分の哲学)と,自分の力量の把握だと思います.

何事も,我々の対象は患者さんです.外科医の手術自慢であってはなりません.その患者さんにとって何がベストなのか,症例ごとに大腿骨か下腿か,関節内か関節外かなどの部位,重症度のグレード,骨強度,若年か老年か,骨欠損なら大きさ,開放骨折ならGustiloのグレードなど,丁寧に適応を議論したり,エビデンスを模索すべきものなのに,一元的に何が一番いいかに固執することはナンセンスと思います.

自戒も込めて,若手にはIlizarovは患者の快適さを犠牲にしているという謙虚さを常に忘れないように口を酸っぱく言います.1㎜の整復不良が,1日のLIPUSの注文忘れが,骨癒合を遅らせるのです.また,AFTTGの若手にはFlapは健常組織を犠牲にしているという謙虚さを忘れないMicrosurgeonになってほしいです(もちろん積極的に必要なFlapを行うことで,これまでのIlizarovよりも快適な術後生活を早く提供できる腕も身に着けてほしいです).相手は生きた患者なのです.

最近,偉大な先生方の講演を拝聴し,トラブルケースの相談を受け,思うところを綴ってみました.

日本中の優秀な外傷外科医が本気で力を合わせたら,日本中の患者がHappyになるはずです.いがみ合っている場合ではありません.

そのような日が一日も早く訪れるように,もう若手ではない自分は,『老害』と言われないように勉強を続け,もっともっと自分の尻を叩いて,奮起しなくてはと思います.時代は刻一刻と変わり,この多様性に適応するには,あらゆる分野の『融合』が必要なはずです.まさに『現状維持は退化』なのだと感じずにはいられない今日この頃です.

股関節鏡キャダバートレーニングin Bostonに参加して (岩本陽輔)

 

3/12-17にかけて股関節鏡キャダバートレーニングに参加してまいりました。

産業医科大学若松病院の内田先生、札幌羊ヶ丘病院の加谷先生という日本の股関節鏡を牽引する2大トップの先生方から直接ご指導いただくことのできるまたとないチャンスに、秋田からは若輩者の筆者が参加させていただけることになりました。

今回のキャダバートレーニングは内田先生、加谷先生の2人の講師の他に7人の先生が参加されておりました。参加者の中で年齢が特に下であり、明らかに浮いていると自覚しながらも必死で得られるものは得て来ようという気構えでボストンに向かいました。

トレーニングの場所であるボストンは私たちが上陸した翌日から数十年?に一度の大寒波がおとづれており、車はスリップし放題、バーが昼間の1時半に閉店になるなど大混乱な状況ではございましたが、それが逆にトレーニングに励める環境になってたのではないかと思います。

今回のトレーニングは実技だけではなく休憩時間に講義形式のレクチャーもあり、股関節鏡の歴史や股関節鏡に必要な解剖や診断方法、基本手技、また特に手術適応が難しい股関節鏡手術における患者選択などについてご教授いただきました。また円靭帯の重要性や円靭帯再建について、鏡視下タナ形成についてなど最新のトピックもご講義いただき大変感銘を受けました。

トレーニングはというと、ポータルの作成から関節包切開、pincerやAIISの処置、関節唇縫合、CAM切除、関節包縫合を5時間ぶっ続けで一通り行わせていただくことができました。

トレーニングに参加にあたり渡米前に3回ワークショップを行ってまいりましたがやはり人体は思っていたようにはいかず、何度も挫けそうになりましたが加谷先生の熱烈なマンツーマン指導のもとなんとか最後まで間ついすることが出来ました。

内容はというとCAM切除も削り足りない部分もあったり、関節包もややゆるい縫合になってしまったり、医原性軟骨損傷を作ってしまったりと

しかしながらあらかじめP-MAPを作成することで操作性が向上したり、関節唇縫合におけるRasso loopをさらにマットレス縫合する縫合方法や、関節包縫合におけるシューレーステクニックなどまだ秋田では行われていない最新の技術も経験することができましたので、秋田の股関節鏡治療に還元していきたいと思います。

基本的には食事は全員で取ることになっていました。特にディナーは内田先生ご推薦のロブスターやお洒落なイタリアン、ブラジリアンステーキ食べ放題など格別に美味しい食事をとりながら、いろいろな先生方のお話(THAや骨切りなども?)を聞かせていただいたき、地域性による考え方の違いなどを聞けたことも自分にとっては非常に勉強位なりました。

股関節鏡の分野はまだまだ日本的にも浸透していない部分も多いですが、肩、膝がそうなってきたようにこれからさらに発展していく分野だと強く感じました。

これからの秋田の股関節治療に従事していく身として非常にモチベーションの上がるキャダバートレーニングでした。是非とも今回得たものを秋田に持ち帰って、自分でも手術ができるように研鑽を積んでいこうと思います。

今回講師をしていただいた内田先生、加谷先生本当にありがとうございました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

smith & nephew本社 鏡張りでとてもお洒落な空間でした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャダバートレーニング前の様子

この後加谷先生からの熱烈なマンツーマン指導を受けました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内田先生、加谷先生とトレーニングメンバー

北は北海道から南は鹿児島までいろいろな先生方と交流することができました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後は内田先生、加谷先生から修了書を受け取り記念撮影

一生の思い出になりました!

AAOS2017米国整形外科学会報告(木島泰明)

 世界最大規模の整形外科学会であるAmerican Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS)
が2017年3月14日から3月18日までアメリカ西海岸のサンディエゴで行われています。
 今日はその最終日のSpecialty Dayで、各専門分野のトップの先生方が今年度のまとめの講演をして下さる日でした。私はHip Societyの会場で講演を拝聴してきました。
 やはり人工股関節置換術の話題が多く、第2世代の高架橋ポリエチレンの成績は良くリメルト処理の方がアニール処理よりも摩耗が少ないとか、いずれにしてもポリエチレンのクオリティが高いためアメリカでの人工関節摺動面の選択は6割がメタルonポリエチレン、35%がセラミックonポリエチレンだという報告がありました。しかし最近ではネックと骨頭部のTaper Corrosionの話題が多く、骨頭もセラミックが選択されるケースが増えているそうです。ちなみに感染率もセラミックヘッドの方が低いと報告されていましたが、今後は抗菌薬入りのポリエチレンも開発されるようで、驚きです。
 本学会で特筆すべきは何といっても我らが秋田大学の野坂光司先生が口演でのご発表をされたことです。タイトルは、Comparison of Joint Distraction and Non-distruction using an Ilizarov External Fixator in the Treatment of Ankle Fractures in Older Patientsです。とても素晴らしい内容ですし、この分野のゴールドスタンダードになる手術方法だと会場の先生方が確信されたことと思います。
 今回は秋田大学整形外科AAOSトラヴェリングフェローとして、今年度人工関節関連の英語論文を発表された鈴木紀夫先生(由利組合総合病院)と冨手貴教先生(北秋田市民病院)が選ばれ、AAOSに参加されています。冨手先生はサンフランシスコに留学経験がありますし、鈴木先生もつい先日リウマチ分野の国際学会でワシントンを訪れていてアメリカ慣れされているため、今回、特別研修プログラムとして参加した若手の井上純一先生(秋田厚生医療センター)や原田俊太郎先生(由利組合総合病院)を先導し、学会参加だけでなくアメリカ文化に触れるためのノウハウも率先してご教示くださっております。
 さて、そろそろこちらは最終日の午後5時を迎えようとしています。今回は野坂先生の留学先でお世話になったアメリカ人の方からも多大な歓迎を受け、連日、おいしいレストランにも連れて行っていただきましたが、今晩は6人で最後の晩餐を頂き、秋田への帰路に就きたいと思います。この度はこのように大変貴重な経験を得る機会を我々に与えてくださいました島田教授をはじめ、参加者の勤務先の先生方、並びに整祐会員の皆様方ににこの場を借りて御礼を申し上げたいと思います。特に山田講師には多大な援助を頂きました。本当にありがとうございました。明日の朝は午前四時にホテル出発予定ですが、無事に全員秋田まで返すのが私の任務ですので最後まで気を抜かずに頑張ります。それではみなさん、秋田で。

第65回JABOに講師として参加してまいりました(野坂光司)

第65回Japanese Association for Biological Osteosynthesis(略称JABO)に講師として参加してまいりました.非常に歴史あるJABOにお招きいただき,世話人の福山市民病院 小川健一先生には心より御礼申し上げます.

 

ピロン骨折は世界的にも難易度が高く,チャレンジングなものとされており,今回は募集即満員御礼だったそうです.

 

原口直樹先生からは受傷機転から分類,小川健一先生からは初期治療の大切さ,早稲田明生先生からアプローチ,松村福広先生からは骨接合,辻英樹先生からは軟部組織の扱い方,最上敦彦先生からは髄内釘,私がIlizarovによるMATILDA法の有用性,依光正則先生からは最近の文献の紹介をいただき,あっという間の一日でした.

 

私の講演の座長は野々宮廣章先生にしていただきました.本当にありがとうございました.他の講師の先生の話も大変興味深く,私自身も大変勉強になった一日でした.またコメントいただきました帝京の渡部欣忍先生,北九州総合病院の福田文雄先生には心より御礼申し上げます.

 

秋田からは益谷先生,湯浅先生が参加されました.この二人には本当に秋田大学の外傷を引っ張っていってほしいと思います.

第5回日本脆弱性骨折ネットワーク優秀演題賞を受賞いたしました(野坂光司)

第5回日本脆弱性骨折ネットワークが3月10~12日,新潟リハビリテーション病院院長 山本智章会長のもとで開催されました.

 

講演,レクチャーは,日本脆弱性骨折ネットワーク理事長の松下隆先生はじめ,高橋栄明先生,遠藤直人先生,萩野浩先生,森諭史先生,澤口毅先生,白濱正博先生,岩本潤先生,田中伸哉先生などからお話いただき,テーマである『脆弱性骨折のBest Practiceを求めて』というコンセプトに基づいた中身の濃い学会でした.

 

私は一般演題で『脆弱性高齢者足関節周辺骨折におけるCELTAB法の有用性』を発表し,優秀演題賞をいただきました.高齢化率日本一の秋田県においては,今後大切になってくる分野と思います.島田洋一教授,宮腰尚久准教授のご指導のもと,A-BONEの一員として,今後もこの分野の研究を頑張っていきたいと思います.

第54 回秋田県脊椎脊髄病研究会 (粕川雄司)

 

2017年3月11日土曜日秋田県JAビルにおいて第54回秋田県脊椎脊髄病研究会が開催されました。今回の当番幹事は秋田厚生医療センターの菊池一馬先生が務められ、特別講演の講師に名城病院 整形外科 部長の辻 太一先生と、岐阜市民病院 整形外科 部長の宮本 敬先生をお招きしました。

7回目となった研修医・若手整形外科医のための脊椎外科基礎講座では、秋田赤十字病院の鈴木哲哉先生が座長で、1.覚えておきたい脊椎疾患として、1) 秋田厚生医療センターの小林 孝先生から神経筋疾患・炎症性疾患について、2)湖東厚生病院の鵜木栄樹先生より仙腸関節障害についてレクチャーいただき、2.最小侵襲脊椎手術(MISS)について、1)除圧術に関して秋田大学の工藤大輔先生から、2)固定術について秋田厚生医療センターの阿部利樹先生からご講演いただきました。当番幹事の菊池一馬先生が若手の先生方に興味のある話題についてアンケートを行い、希望が多かったテーマについて各先生方から大変わかりやすくお話しいただきました。

ミニレクチャーは、宮腰尚久准教授の座長で菊池一馬先生より「PLIFのラーニングカーブ-これまでの経験-」と題して、PLIF手術執刀例の手術時間と出血量に関する変化を詳細にご講演いただき、術式の変遷や今後の展望も含めて勉強になりました。

一般演題は、秋田赤十字病院の石河紀之先生が座長で4題の発表がありました。秋田厚生医療センターの井上純一先生は「胸髄Arachnoid webの1例」、秋田大学の尾野祐一先生は「ハローベストにより治療した神経線維腫症に伴う慢性環軸椎回旋位固定の1例」、秋田大学の鈴木真純先生は「機械弁置換術後抗凝固療法中の頚椎硬膜外血腫の1例」、秋田労災病院の佐々木寛先生は「当科でのOLIF-導入時からの短期成績-」でした。すべての演題とも大変興味深い発表でしたが、その中から鈴木真純先生が最優秀演題賞を受賞されました。おめでとうございます!4月から新しい勤務先でますますご活躍されますことを祈念しています。

特別講演1では、辻 太一先生から「脊柱変形治療の悩みどころ-小児から成人まで-」というご講演を頂きました。数多くの難しい脊柱変形患者さんの治療を実際に行っている先生のお話しは、大変勉強になりました。特に、一人一人の患者さんについてどのように治療するか、それに伴い生じた問題点を解決するため、先生が考え悩んでいることがとても印象に残りました。特別講演2では、宮本 敬先生から「脊椎前方手術の轍(わだち)の認識、回避、克服」と題したご講演を頂きました。岐阜と秋田とのかかわりから、秋田では比較的手術数が少ない前方手術について、そのピットフォールを楽しいお話しとわかりやすい画像・動画でお話しいただきました。前方手術の轍をいろいろ知ることができ、身が引き締まるご講演でした。3月のお忙しい時期に、遠路はるばる秋田までお越しいただいたお二人の先生方に心より感謝申し上げます。今後とも、ご指導よろしくお願いいたします。

本研究会は、今回で54回を迎え役員の改選が行われました。会発足より会長をお務めいただいた阿部栄二先生がご退任され、宮腰尚久准教授が会長にご就任されました。さらに小林 孝先生が副会長、奥山幸一郎先生と鈴木哲哉先生が常任幹事にご就任されました。今後ますます研究会が発展し、若手の先生方にとっても有意義な研究会となるように頑張っていければと感じました。当日、ご参加いただいた先生方ありがとうございました。これからも、よろしくお願いいたします。


第43回九州膝関節研究会でspecial lectureを担当して(齊藤英知)

2011年3月11日、秋田大学DMATのリーダーとして、三陸、大船渡へ災害救助にむけて秋田市を出発したのは、震災発災より2時間後であった。街は停電で、重い気持ちで、いつもよりずっと暗い国道を東にむけてただ走った。岩手医大の本部を経由して、大船渡へ到着したのは、発災から13時間後の翌朝5時を過ぎたころであった。のべ2万人の死者を出したこの震災で、発災直後ですら、病院に搬送されてくる患者さんの少なさにただ失望し、地震や津波の恐ろしさを実感した。福島の原発事故のニュースを見て、ただ人間の無力さを実感した。

あれから6年が経ったその日に、九州福岡で、伝統ある第43回九州膝関節研究会を長崎大学の米倉暁彦先生が会長として開催され、主題に、変形性膝関節症に対する膝関節温存手術(膝周囲骨切り術)を指定された。私に与えられたspecial lectureのお題は、「大腿骨遠位骨切り術」であった。九州といえば、膝周囲骨切り術の聖地であり、緒方公介先生のinterlocking wedge osteotomy、千葉剛次先生のTibial Condylar Valgus Osteotomyといったオリジナリティーの高い膝周囲骨切り術が開発され、九州全域で関節を温存する文化が根付いている地域である。そのような文化をもつ九州で、膝周囲骨切り術のspecial lectureをさせていただくことは大変な名誉であり、震災から6年目として感慨深い(あの頃はここまで膝関節温存手術ののめり込むとは思っていなかった)。私は、その名誉に報いるべく、全身全霊で、自分の持つ知識、最新の手術のコンセプト、変形解析の重要性、手術のコツと落とし穴、注意点、膝周囲骨きり術の術後成績や最新の歩行解析の結果から、なぜ大腿骨遠位骨切りがkey osteotomyなのかについて述べた。特別講演は、大阪大学の中田研先生の、再生医療からプロスポーツ選手の治療、オリンンピックに帯同したお話など、多岐にわたる論理的なお話を拝聴でき、大変勉強になりました。

このような機会を与えてくださった米倉暁彦会長、九州膝関節研究会に会員の皆様に深謝致します。引き続きASAKG(Akita Sports Arthroscopy Knee Group)を何卒よろしくお願い申し上げます。

 

第30回創外固定・骨延長学会学術集会 (湯浅悠介)

 

3月3、4日福岡県久留米市にて第30回創外固定・骨延長学会学術集会が開催されました。秋田からは島田洋一教授、野坂光司先生を始め、医師9名、看護師5名の計14名が参加いたしました。本学会の総演題数123演題のうち、秋田からは14演題の発表があり、秋田における創外固定の勢いを改めて実感いたしました。

学会は久留米大学医学部整形外科学教室白濵正博教授の挨拶から始まりました。シンポジウムでは全国トップランナーの先生方から「急性期外傷に対する創外固定」、「合併症に対する治療」、「脆弱性骨折に対する創外固定」のテーマでの講演があり、当教室の野坂先生からも“脆弱性骨折におけるIlizarov創外固定のコツ”と題して発表がありました。高齢化率全国1位の秋田県における高齢者を絶対に寝たきりにさせないため、早期全荷重を可能とするIlizarov創外固定手術の有用性を再認識することができました。一般演題では、市立秋田総合病院の柏倉剛先生、市立横手病院の冨岡立先生、平鹿総合病院の千田秀一先生、市立角館総合病院の青沼宏先生、そして秋田大学から益谷法光先生、長幡樹先生、湯浅悠介の7名が発表致しました。下腿外傷はもちろん、足部外傷、上肢外傷、Ilizarov周辺骨折、関節リウマチなど様々な用途で創外固定が使われており、秋田の技術の高さを感じました。また、コメディカルセッションでは岩原香織さんから“創外固定のケアの向上、後方支援施設との連携を目指して創外固定ケアセミナー「秋田県で広げよう創外固定輪・和」開催報告”、仲山晴香さんから“イリザロフ創外固定患者が退院後に抱える生活上の問題点と退院支援への課題”と題して発表がありました。Ilizarov創外固定手術患者における入院日数の長期化は全国的にも問題とされておりますが、秋田県は大学病院を中心として医師のみでなく、看護スタッフも指揮をとり、様々な工夫のもと期間短縮がなされていることを学びました。また、退院がゴールではなく退院後生活に対するケアも行っており、改めてIlizarov創外固定手術はコメディカルスタッフの支えがあって成り立っていることを感じました。

そして島田洋一教授からは『創外固定の未来~高齢者脆弱性骨折におけるIlizarov創外固定の有用性~』と題してご講演いただきました。島田教授がIlizrovを導入した経緯や全県各地へ広めるための努力、そして高齢者の多い秋田県におけるIlizarovの有用性など、様々なことを学ばせていただきました。教授のIlizarovに対する愛により、「秋田はIlizrov王国」と呼ばれるまで成長するに至ったのだと感じました。教授の卓越した話術により時には会場から笑い声が上がるほどの盛り上がりをみせました。

今後はIlizrovとMicroの融合をテーマに秋田は進んでいきます。僭越ながらその一助になれるように私自身、日々精進していきたいと思います。

 

 

 

第47回人工関節学会in沖縄に参加して (岩本陽輔)

2/24-25に沖縄で開催された第47回人工関節学会に参加してきました。

今回の人工関節学会には秋田の同門からはAHRG、ASAKGから過去最多の発表、参加がありました。

2/24の夜には日整会かと思うほどの盛大な同門会が行われました。秋田のこれからの人工関節に対しての熱い討論が繰り広げられました。

学会では最近の話題であるMISの中期〜長期の臨床成績やMISに伴うshort stem の臨床成績についての発表が多い気がしました。また当科でも使用をはじじめたcorailの演題も多く見られました。

同じ専門領域を志す人たちと交流することもでき、大変良い刺激をうけました。この会で得た知識を日々の診療・研究に活かしていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発表をするAHRG若手と華麗に座長をこなす秋田赤十字病院、田澤人工関節センター長

 

2017人工関節学会で膝周囲骨切り術のハンズオンセミナー講師を担当して(齊藤英知)

リーフレット

内側開大型高位脛骨骨切り術後X線像

脛骨近位に変形がある場合に行われる高位脛骨骨切り術の手術の適応、プランニング、実際、合併症の注意点について述べた

熱心な眼差しで取り組む参加者の先生方

2017人工関節学会で膝周囲骨切り術のハンズオンセミナー講師を担当して

変形性膝関節症に対する手術治療として、関節温存手術である高位脛骨骨切り術などの膝周囲骨切り術や人工膝関節置換術がある。膝周囲骨切り術の特徴として、術後可動域や深部感覚が保たれる。一方、人工膝関節置換術では、可動域は失われるものの除痛効果が高いという特徴がある。人工関節置換術は、関節軟骨を金属とポリエチレンで表面置換する、いわば、最終手段であり、若年で活動性が高いほど術後の満足度が低く、ポリエチレンの磨耗も生じやすい。現在に日本では、人工膝関節置換術は、年間10万件以上が施行されている一方、膝周囲骨切り術は年間、7000件しか行われておらず、日本に2530万人の患者さんがいると推定される変形性膝関節症の進行度の分布や医療経済の側面から考えても、膝周囲骨切り術の手術件数はもっと多くてしかるべきである。

今回、第47回人工関節学会において、高位脛骨骨切り術ハンズオンセミナーが主催された。「なぜ人工関節学会で骨切り術のハンズオンやるの?」と多くの声を聞いた。この企画は、非常に画期的であり、従来、人工膝関節置換術を専門として行ってきた整形外科医で会場は、立ち見が出るほどであった。今回、私に与えられたテーマは、surgical technique of OWHTO(高位脛骨骨切り術の手術技術)ということで、手術適応、プランニング、コツとそのエビデンス、合併症、後療法などについて、ドイツ仕込みのテクニックを豊富な手術ビデオとともに概説した。特に驚いたのは大学病院からの参加された先生方の多さである。このことは、今後の膝周囲骨切り術が、より日本中に浸透していくであろうことが予想される。模擬骨を用いたワークショップでは、細かなポイントを参加者の皆様にお伝えした。幸い、秋田県では、我々Akita Sports Knee and Arthroscopy Group内で、変形性膝関節症に対する手術適応および手術技術が一貫教育されており、すでに知識や技術が若手整形外科医に渡るまで維持されている。このような体制で膝周囲骨切り術と人工関節置換術の適応をバランスよく、大学主導で教育できている都道府県は少ない。これも、ひとえに島田洋一教授の指導力の賜物であり、秋田県民にとって、非常に有難い環境を作って下さっていると感じる。先日も、福島からわざわざ秋田まで膝周囲骨切り術を受けに下さった患者さんがいらっしゃった。あくまで人工関節置換術は、最終手段であり、侵襲の少ない膝周囲骨切り術がもっと日本中に浸透していくことを切に願う。

「死ぬまで自分の膝で!」