令和1年7月20日に、第11回秋田県手外科研究会が開催されました。
毎年恒例、エコーのハンズオンセミナーがまず開催されました。今年は平鹿総合病院の佐々木研先生から「神経ブロックあれこれ」と題し、エコー下神経ブロックで用いる局所麻酔薬の副作用について、明日から役立つ内容を講義していただきました。その後、被検者の方に実際エコーを当てながら、腋窩、鎖骨上、斜角筋間での神経の描出を行いました。秋田大学整形外科では若手の必修事項にこのエコー下ブロックがあります。この手技によって上肢や下肢の手術を整形外科医師自身が麻酔をかけることで可能となっており、手術件数の増加に寄与しています。若手の先生方は、日常診療で感じる疑問点を、実際にエコーを触りながら質問することができ、非常に有意義な時間になったかと思います。
一般演題は6演題の発表があり、最優秀演題賞は「緊急手術を要した急性手根管症候群の1例」で市立横手病院の大内賢太郎先生が受賞されました。稀な症例に対して手根管内の内圧を自身で測定し、適切な治療を行い良好な成績が得られたこと、また文献的考察をあわせてお示しいただきました。稀な症例に真摯にむきあい、一つひとつ知識を蓄積していくことの重要性をあらためて教えていただきました。その他の5演題もすべて勉強になるものばかりで、明日からの診療に生かしていきたいと思いました。
その後、町立羽後病院の益谷法光先生から「Wide awake hand surgery の基本 -外来手術から腱移行まで-」と題してミニレクチャーをいただきました。手術は通常、全身麻酔やブロック麻酔で行うことが多いのですが、Wide awake hand surgeryでは局所麻酔薬を皮下に浸潤させて麻酔を得ます。益谷先生は秋田県で先駆けてこの手法を導入されており、その適応疾患から実際の麻酔方法について詳細にお話いただきました。患者さんは手術中に手指を動かすことができるため、指の腱を扱う手術で特に有用な方法であり、また低侵襲であるため入院期間の短縮にもつながるとのことでした。今回のミニレクチャーで勉強させていただいた内容をもとに、今後の診療に私自身も応用させていただこうと思いました。
特別講演は兵庫医科大学元教授であり、現在は荻原整形外科病院の副院長 兼 手外科・スポーツ障害治療センター長の田中寿一先生から「スポーツによる手・肘の障害治療」と題してご講演いただきました。田中先生には手外科医として、またスポーツドクターとしてのこれまでのご経験を元に多岐にわたってご講演いただきました。舟状骨の骨折で現在我々が頻用しているDTJスクリューは田中先生が考案されたものであり、その特性や使用方法について動画を交えて非常にわかりやすくご説明いただきました。研究会後の懇親会では直接お話させて頂く機会がありました。その中で印象的であったのは、スポーツ選手の復帰時期についての田中先生のお考えでした。骨折であれば焦らず骨癒合してから、その間は「傷害部位に負担をかけない、やっても良いこと」を指導してあげることが大切であるということをお話しいただきました。スポーツ傷害の患者さんに対して、「やってはいけない」というのは簡単なことですが、できることを一緒に考え提案することの重要性を教えていただきました。手外科疾患、スポーツ傷害で困っている患者さんに対して最良の治療を提供できるよう、そしてスポーツ復帰までを適切に指導できるよう、日々研鑽を積んでいきたいと思いました。田中先生、ご講演いただき、誠にありがとうございました。