脊髄電気生理学的モニタリングの歴史は古く、体性感覚誘発電(somatosensory evoked potentials:SEP)から始まり、1954年にDawsonが自動加算装置を開発してからは急速に広まることになりました。1990年代に入ってからは経頭蓋磁気あるいは電気刺激によって誘発筋電図を記録する、運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)が普及し始め、それまでは感覚路のみのモニタリングでありましたが、運動路モニターも可能となりました。神経モニタリングは整形外科に限らず、心臓血管外科、耳鼻科などあらゆる分野で活用されています。運動・感覚神経に直結する分野である脊椎外科領域では必須の手技と言えます。
今回島田教授の御高配により、尾野祐一先生・木村竜太先生とともに和歌山労災病院脊椎センター 安藤宗治先生の元でモニタリングの研修をさせて頂く機会を与えて頂きました。かねてからモニタリングに関する御功名は存じておりましたが、実際にお会いするのは初めてで、島田教授と同じKARATE fighterということでいささか緊張しておりましたが実際お会いした先生は非常にgentleでした。まず朝の病棟のオーダー端末の前で行われる術前術後カンファランスから参加させていただきました。脊椎以外にも上腕骨頚部骨折, TKA, 手外科など幅広い分野の疾患を扱っているようでした。その後は別室で、安藤先生直々にスライドを用いた脊髄モニタリングの基礎と実際の症例を提示して頂きながら応用に関する講義をしていただきました。脊髄モニタリング初心者の自分にもとても分かりやすく感銘を受けると同時に、実際の症例を交えてのpit fallの話などは、秋田で行っている脊椎手術においても決して人ごとではなく、モニタリングをさらに普遍的な物にしていかなくてはならないと、重要性を改めて実感するものでした。
さて、実際のモニタリングの見学症例ですが、胸椎OYL laminectomyでした。まず驚いたのが、技師さんが電極設置から術中刺激, 記録など医師の指示の元全て行っていたところです(欧米では普通のことのようですが)。しかもその日は見習い的な方を含めて技師3人体制で行われておりました。技師さんも、安藤先生からの御指導以外にも研修, 勉強会等に参加するなど、積極的にモニター管理に取り組む体制が構築されているのにも驚くと同時に秋田の遅れを痛感いたしました。また、これはコストやマンパワーなど施設間の体制に左右されることもあるのかもしれませんが、和歌山労災病院では transcranial MEPに加えて脊髄刺激脊髄誘発電位も同時にモニタリングしておりました。先にご講義頂いた内容を見てですが、双方のモニター方法で補完し合うことで(例えばtranscranial MEPでは後側索レベルでの障害の検出には不向きです)、無駄なope中止や重篤な神経障害の残存を回避した症例もあり、当院でも導入すべき体制であると感じました。
最後になりますが、確かに脊髄モニタリングは、波形の高低、出た出ないだけで行えるほど単純なものではありませんが、基本的な原理を理解すればあとは症例を重ねてゆく事が重要であると思いました。