「自由」の国、フランスの手術3-人工関節以外―
アンリ・モンドール病院では主に人工関節の手術を勉強させてもらいましたが、それ以外の手術についても主に写真を使ってご紹介させていただきます。写真の前にまずは簡単にコメントを。
最初は脊椎。ここアンリ・モンドール病院の整形外科では、頸も腰も半分以上が前方固定です。紹介患者さんばかりの大学病院だからかもしれませんが、まず前方から行けないかと考えるようです。普通の脊柱管狭窄のみの患者さんは少ないですが、その場合には開窓ではなく椎弓切除をしていました。棘突起をリュエル(フランス語では「ら・ぶーしゅ」と聞こえます)で切除して、ケリソン(フランスでもケリソンでいいみたいです)だけで行っています(エアトームは使っていませんでした)。
それから膝のHTO(フランス語ではOTV)。内反が強い症例が少ないこともあり、僕が見た限りは全例カルシウム・フォスフェイト・セラミックのスペーサーを使ったオープンウエッジのHTOでした。ACL再建はSTを使ったシングルバンドル再建、半月板を縫うときはスミス・アンド・ネフューのオールインサイドスーチャーデバイスを使用。ただ膝専門の先生だけはグラフトにBTBを使用していました。この辺に関しても、術者の裁量権が大きいところが「自由」の国ならではなのかもしれません。
転子部骨折には僕たちも見慣れているストライカーのガンマ3を使用。症例が多いこともありますが、整復もラグスクリューの位置などもそんなには頑張らない感じです。エンドキャップも使っていませんでした。カットアウト症例もありましたが、あっさりTHAにコンヴァージョンしていました。ちなみに日本の手術室でも良く見かける手袋サイズリストを見ますと、全員手袋サイズは7以上で、6.5以下の人はいませんでした!
それから、こちらでは出産もほとんど無痛で行われるらしく、痛いのは嫌いのようで踵骨骨折に対するウエスチウス法後のスタイマンピン抜釘も全麻で行われていました。エコー下ブロックは麻酔科医が術後にやっていますが硬膜外麻酔をやっているところは一度も見ませんでした。TKAなどでのカクテル療法もここではやられていません。
ここで、ちょっとだけフランス語講座-手術リスト編-Droit 右、Gauche 左、Autreは英語の”other”、Ablationは切除、Deposeは抜去、clou がネイル、Teteはヘッド、Epoleが肩です。ちなみに、手術の出来上がりの写真を見せられて「さすがです!」と言いたいときは、親指を立てて「ぱはふぇ!(パーフェクトの意)」でいいようです。
最後にHerinigou教授の研究で最も有名な大腿骨頭壊死に対する骨髄移植手技について。ここでは現在、大腿骨頭だけでなく肩や膝などあらゆる壊死に対して骨髄移植が行われています。日本でも一部の大学では行われているようですが、まだ普及はしていません。ここでの手技は簡単で、両腸骨より250mlの骨髄液を採取し、それをラボで濃縮して(戻ってくるまで1時間)、その間に透視下にトロッカーを留置し、ラボから届き次第トロッカーを通して注入するだけです。ただフランスの大腿骨頭壊死のほとんどの原因は鎌状赤血球症のようなので、日本の壊死に同様の手技が有効かどうかは不明なようです。
↑人工椎間板。術者は患者さんの股の間に立ち、正面からアプローチ。
↑5/Sの前方固定。こんなデバイスも初めて見ました。カメラも補助的に併用。
↑前方に血管があるときは側方から止めるそうです。多椎間では後方。
↑ACL再建のグラフトは主にST。デバイスは主にスミス&ネフュー。 ↑HTOはオープンウエッジ。UKAなどとの使い分けも「自由」な感じです。 ↑肩関節鏡手術。結構自在に動くし、肩の部分外れる手術台で便利(フランスベッド?)
LHBは切っていました。関節面側からかなりデブリし、断裂部へ向けて針を入れ、さらにデブリしてフットプリントを出したくらいでようやく関節包側へカメラを入れていました。そしてここでもクマイラズを使用していました!デバイスは主にマイテック。 ↑ほとんどの手術を全員がやっていましたが、足の手術と肩のスコピーだけは、外から専門家を呼んでいました。股関節鏡はここではやっていないということでした。 ↑大腿骨頭壊死に対する骨髄移植手術。decompression効果もあるでしょうか。↑肩や膝の壊死にも骨髄移植。リバースショルダーやUKAも時々ありました。 ↑転子部骨折の牽引台。健側は牽引しません。もう一つの手術室が隣に見えます。
どの手術もそうですが、文献を読んでとかというよりも、職人気質的に伝統芸を教えるようにコムサ コムサ(こんなふうにこうやって)という風にインターンを指導しています。 ↑昼食はいつもエスプレッソにサンドイッチ(食パンでなくフランスパン)。 ↑最後は教授夫妻が我々家族を夕食に招待してくれました!