2011年3月11日、秋田大学DMATのリーダーとして、三陸、大船渡へ災害救助にむけて秋田市を出発したのは、震災発災より2時間後であった。街は停電で、重い気持ちで、いつもよりずっと暗い国道を東にむけてただ走った。岩手医大の本部を経由して、大船渡へ到着したのは、発災から13時間後の翌朝5時を過ぎたころであった。のべ2万人の死者を出したこの震災で、発災直後ですら、病院に搬送されてくる患者さんの少なさにただ失望し、地震や津波の恐ろしさを実感した。福島の原発事故のニュースを見て、ただ人間の無力さを実感した。
あれから6年が経ったその日に、九州福岡で、伝統ある第43回九州膝関節研究会を長崎大学の米倉暁彦先生が会長として開催され、主題に、変形性膝関節症に対する膝関節温存手術(膝周囲骨切り術)を指定された。私に与えられたspecial lectureのお題は、「大腿骨遠位骨切り術」であった。九州といえば、膝周囲骨切り術の聖地であり、緒方公介先生のinterlocking wedge osteotomy、千葉剛次先生のTibial Condylar Valgus Osteotomyといったオリジナリティーの高い膝周囲骨切り術が開発され、九州全域で関節を温存する文化が根付いている地域である。そのような文化をもつ九州で、膝周囲骨切り術のspecial lectureをさせていただくことは大変な名誉であり、震災から6年目として感慨深い(あの頃はここまで膝関節温存手術ののめり込むとは思っていなかった)。私は、その名誉に報いるべく、全身全霊で、自分の持つ知識、最新の手術のコンセプト、変形解析の重要性、手術のコツと落とし穴、注意点、膝周囲骨きり術の術後成績や最新の歩行解析の結果から、なぜ大腿骨遠位骨切りがkey osteotomyなのかについて述べた。特別講演は、大阪大学の中田研先生の、再生医療からプロスポーツ選手の治療、オリンンピックに帯同したお話など、多岐にわたる論理的なお話を拝聴でき、大変勉強になりました。
このような機会を与えてくださった米倉暁彦会長、九州膝関節研究会に会員の皆様に深謝致します。引き続きASAKG(Akita Sports Arthroscopy Knee Group)を何卒よろしくお願い申し上げます。